特殊法人の財務内容の公開について                   
  総務庁が1995年12月から1996年3月にかけて91法人(廃止の決まった社会保障研究所を除く)を対象に行った行政観察結果がある(注10)。これによると、貸借対照表と損益計算書は全法人が作成・公開している。
 しかし、資金の増減や費用の明細などを明らかにする付属説明書類は16法人が公開しておらず、3法人は作成もしていなかった。また、事業報告書や付属説明書類の記載事項が法人によってまちまちで、公開規定の整備も不十分であった。このため、総務庁は財務内容等に関する書類の作成・公開を義務づけ、記載事項を標準化し、公開期間を5年間とする規定を設けるよう勧告した(注11)
 その勧告を受けて、平成9年6月24日、「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の推進に関する法律」が公布され、財務内容を明らかにする書類について、その作成規定を明確にし、作成義務のある書類について、一般の閲覧に供することが義務付けられた。
 公的な資金を使って公的な事業を行っている以上、その経営内容を明らかにし、公的資金が効率的に用いられているか、公的事業に適正に費やされているかを、国民がチェック出来るようにするのは当然である。
 特殊法人の財務内容に関する情報公開について、以下の問題点を指摘して

1)財務内容公開の形式 
 各特殊法人は損益計算書を勘定式で表記しており、収支状況の把握がしにくくなっている。損益計算書は報告式で表記されるべきである。また、特殊法人は業務内容が多岐にわたり、会計も勘定ごとにまとめられている場合が多い。
 そのような場合でも、別途総括した財務諸表を作成し、全体的な財政、収益の実態をつかみ易くすべきである。また、子会社を持っている場合には、連結決算により、全体の収支を算出し、親法人の赤字の裏で子会社の黒字が隠されることのないようにすべきである。

(2)財務内容 

 多くの特殊法人においては、その根拠法により、利益を計上した際に一定額を積立金とした後、あるいは利益額をそのまま、国庫に納付することが規定されている。
 ところが、平成5年度から平成8年度の決算において、石油公団、船舶整備公団(現在は運輸施設整備事業団)、新東京国際空港公団、阪神高速道路公団、環境事業団、北海道東北開発公庫、国民金融公庫、環境衛生金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、公営企業金融公庫の当期利益は4期連続ゼロである。これらは、各種引当金の繰入や戻入、各種準備金の繰入や戻入、補助金や交付金の戻入による赤字隠し、または黒字隠しの利益操作が疑われる。
 金融機関の場合は特に中小企業信用保険公庫、日本開発銀行、日本輸出入銀行を除き、利益の積立が認められておらず、損益計算上の利益金を生じたときは、国庫に納付することになっていることも利益操作につながっていると思われる。
 その他、利益や損失を計上している法人でも不透明な勘定科目による意図的な利益操作が行われていると思われる。
 たとえば、地域振興整備公団における譲渡価格調整準備金、阪神高速道路公団における償還準備金等は利益あるいは損失の調整弁として使われているのでないか。これら引当金や準備金、雑損、雑益は計上基準も不明朗で数値を公表されただけでは実態をつかみにくい。
 各法人の会計基準は、それぞれ省令により定められているが、その会計基準のあり方自体も問われている。
 また、累積赤字を抱えながらも、外部からの借入金がなく、政府からの資本金積み増しにより、借金の補填にあてているという特殊法人の実体も指摘されている(注12)
 財務諸表の公開が義務付けられたことで公開時期や公開内容面で特殊法人間の足並みはある程度揃ったといえよう。とはいえ、今回の法制定は多くの法人が任意に実施していたものを義務化したレベルを超えておらず、情報公開の質が高まったとは言い難い。特殊法人でしか見られないような特殊な勘定科目の多用とその内容のわかりにくさは相変わらずで同種の民間企業との比較も困難である。
 国際的にも世界銀行を中心に公会計基準の世界標準作りの動きがでてきており、大蔵省が整備に着手することとなっているが(平成9年7月20日 日本経済新聞)、会計の透明性を高めるためには特殊法人の
 会計にも企業会計基準を取り入れ、民間企業との収益性、効率性の比較を可能にし、予算消化のためのムダ使いや引当金等による利益隠しなどをできないような会計基準を適用する必要があろう。
また、財務に絡む問題として会計監査機能の問題がある。
 特殊法人は政府出資割合の高いものが多く(注13)、会計検査院の必要的検査対象となっているものが大部分である(注14)。しかし、厳正な会計検査がなされているかどうかは疑問符がつく。また、内部監査機能として監事制度が設けられており、これによる監査機能が正常に機能しているならば、内部監査の段階で財務や業務に関する改善等の処置が適切になされていたはずであろう。
 東京弁護士会での調査によると、ほとんどの特殊法人は監事監査の公平性、独立性は監事が主務大臣により任命されていること等で担保されていると認識しているようだが、特殊法人を天下りポストとしても認識している監督官庁による任命がそれほど有効とは思えない。
 内部監査が十分機能していないからこそ期連続してゼロ決算という報告をする特殊法人が現れるのである。 
 監査の実をあげるためには内部監査だけでなく、監督省庁からも独立した外部の第三者による監査、例えば市民監査などの導入が必要であろう。
(注13)特殊法人に対する政府出資について  
 特殊法人を資本構成の観点からみてみよう。まず、特殊法人中、日本放送協会、中小企業退職金共済事業団、私立学校教職員共済組合、農林漁業団体
 職員共済組合、建設業・清酒製造・林業退職金共済組合、農業者年金基金、日本自転車振興会、日本小型自動車振興会、地方競馬全国協会の9法人は、資本金ないし基金をもっていない。運営は年単位の国からの補助金、交付金によっている。
 残る特殊法人は、資本金ないし基金を有しており、資本金全額が政府出資にかかる法人が45法人にのぼっている。これは特殊法人の過半数を超えている。
 首都高速道路公団等、政府と関連自治体との共同出資による7法人も全額公的資金により設立されたものと同視してよいと言えよう。  
 特殊法人中、政府の出資が全くないものは、日本学術振興会、日本勤労者住宅協会、国際電信電話株式会社、財団法人日本船舶振興会の4法人にすぎない。
 このうち国際電信電話株式会社と財団法人日本船舶振興会を除く2法人については政府出資がないものの、補助金等による運営である。
 旧国鉄である旅客鉄道株式会社7社のうち、株を上場している東日本旅客鉄道株式会社と東海旅客鉄道株式会社を除いた5社は、政府全額出資の日本国有鉄道清算事業団による出資割合が100%である。全額公的資金により設立されたものと同視して差し支えないであろう。
 残る14法人は、政府出資割合90%以上が7法人、80%以上が3法人、70%以上が1法人、60%以上が2法人であり、50%を下回るのは社会保険診療報酬支払基金のみである。この法人の場合、100万円の基本金のうち、40万円を政府が出資しており、残りを健康保険組合、国民健康保険組合等の社会保険の保険者が出資している。健康保険事業の性格を考えても公的な事業といってよいであろう。
 このように出資金等から見ても特殊法人はその大部分が設立及び運営のための資金を公的資金に依っていることがわかる。
 参考文献:浅岡 美恵「特殊法人等の情報の公開」『自由と正義』1997年1月号

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